大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所金沢支部 昭和35年(う)163号 判決 1960年8月13日

被告人 野村正穂

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

但しこの裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予する。

岡山地方検察庁保管のカモシカ毛皮製しり当て四十一枚はこれを没収する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴趣意(法令適用の誤り)は、富山地方検察庁高岡支部検察官事務取扱検事野崎賢造提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

記録によれば、原判決は、本件公訴事実中昭和三十四年四月頃から同年九月中旬頃までの間におけるカモシカのなめし毛皮の譲り受け及び同年四月二十七日頃から同年七月十三日頃までの間のカモシカの毛皮製しり当ての譲渡のみを有罪と認定し、昭和三十二年九月頃から同三十三年八月頃までの間のカモシカのなめし毛皮の譲り受け及び同三十三年六月初頃から七月十一日頃までの間のカモシカの毛皮製しり当ての譲渡については、「狩猟法附則第五項により罪とならない(昭和三十三年九月二十日農林省令第四十二号による同法施行規則の改正規則が同年十二月一日施行されるまでは、カモシカの毛皮及び毛皮製品は、同年法律第五十一号による改正前の同法第二十条にいう法令に違反して捕獲した鳥獣に含まれないと解される)ので、吉居正俊に対する譲渡行為については刑事訴訟法第三百三十六条により無罪の言い渡しをし、その余の譲渡及び譲り受け行為は前示認定の当該譲り受け又は譲渡先毎の罪の行為と包括して一個の行為であるから、これらの点については主文において無罪の言い渡しをしない。」と判示していること所論のとおりである。案ずるに、昭和三十三年法律第五十一号による改正前の狩猟法第二十条は「本法又ハ本法ニ基キテ発スル省令ニ違反シテ捕獲シタ鳥獣又ハ採取シタル鳥類ノ卵ハ之ヲ譲渡シ又ハ譲受タルコトヲ得ス」と規定し、右鳥獣の加工品の譲渡又は譲り受けを禁止する旨の明文は存しなかつたが、右改正法律は、第二十条中「省令」の下に「若ハ都道府県規則」を加え「鳥獣」の下に「(其ノ加工品ニシテ省令ヲ以テ定ムルモノヲ含ム)」を加える、と規定し、昭和三十三年農林省令第四十二号をもつて狩猟法施行規則中に新たに第四十三条の二の規定を設け、(同条は昭和三十三年十二月一日から施行)、カモシカの毛皮及び毛皮製品等鳥獣の加工品の譲渡又は譲り受けを禁止する明文を置いた。しかし右改正前の狩猟法第二十条が狩猟法令に違反して捕獲したる鳥獣の授受を禁ずる趣旨は、本来鳥獣の保護蕃殖のため捕獲を禁ずる法意の延長であるから、これを解体して毛皮にしたとしても、之が解釈を異にすべきでなく、毛皮をもつて法律上鳥獣と解して差支えないし、前記改正の趣旨も疑義の生ずる虞れのあつた鳥獣の意義を明白にしたものに過ぎないと解すべきであるから、改正前の狩猟法当時の前記カモシカのなめし毛皮の譲り受け及びカモシカの毛皮製しり当ての譲渡についても、当然改正前の狩猟法第二十条及びその罰則たる第二十二条の適用があり、原審がこれを罪とならずとして無罪にしたのは、法令の解釈適用を誤つたものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い当審において更に自判する。

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三十二年九月頃から同三十四年九月中旬頃までの間別表(一)記載のとおり富山県西礪波郡石動町野端百四十四番地の被告人方ほか一か所において、石崎友二ほか一名から前後十六回に亘り、法令に違反して捕獲した鳥獣であるカモシカのなめし毛皮六十枚を代金合計二十五万九千百円で不法に譲り受け、

第二、昭和三十三年六月初旬頃から同三十四年七月十四日頃までの間別表(二)記載のとおり富山市東四十物町三十五番地株式会社アキレス商会外五ヵ所において、同会社ほか五名に対し前後二十三回に亘り、法令に違反して捕獲した鳥獣であるカモシカの毛皮製しり当て二百四十六枚を代金合計四十七万八千七百円で不法に譲渡し

たるものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は、別表(一)、(二)の各番号毎に、昭和三十三年十一月三十日以前の譲り受け、又は譲渡につき狩猟法附則第五項により改正前の同法第二十二条第一号第二十条罰金等臨時措置法第二条に同年十二月一日以後の譲り受け又は譲渡につき狩猟法第二十二条第一号第二十条同法施行規則第四十三条の二第三号罰金等臨時措置法第二条に該当(右番号毎即ち譲り受け先、譲渡先毎に包括一罪とし、狩猟法改正前後に亘るものについては改正後の狩猟法により処断する。)するので所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条第十条により犯情の重い石崎友二からカモシカのなめし毛皮を譲り受けた罪(別表(一)の一、)の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役四月に処し、情状により刑法第二十五条第一項を適用しこの裁判確定の日から参年間右刑の執行を猶予することとし、岡山地方検察庁に保管のカモシカの毛皮製しり当て四十一枚は判示ヲダケヤ運動具店に対する不法譲渡行為の組成した物件であり、その後被告人において返品を受けており、被告人以外の者に属しないから同法第十九条第一項第一号第二項に従いこれを没収することとし、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人の負担とし、主文のとおり判決する。

(別表(一)(二)略)

(裁判長 山田義盛 辻三雄 干場義秋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例